2025年12月3日(水)
2025年12月3日(水)
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(作品解説)
「セイレーンの島」
―ピアノとオーケストラの為に―(初演)
"Siren's Island" for Piano and orchestra
「セイレーン」とは、伝説の海の怪物のことで、姿は半人半鳥(もしくは半人半魚)とされている。美しい歌声で船乗りを惑わし、島へ船をおびき寄せて乗組員を喰い殺してしまうという、恐ろしい魔物である。
前作の「天馬夜空の海を翔る」より、ピアノとオーケストラの為に海洋を舞台とする劇付随音楽を手掛けているのだが、この作品はロマン派の「交響詩」的な内容(たとえばドヴォルザークの交響詩のような)となっており、私自身が考えたストーリーに沿って音楽が進んでいく。
序奏は、霧の中の船出のシーン。霧笛(チューバによる)が遠く響き、短いピアノのカデンツァに導かれて、大洋を悠々と航行するシーンのテーマがホルンで奏でられる。途上、美しい島を表す副主題によって魔物のもとへと船はいざなわれ、やがてそこへ妖しいセイレーンの歌声が流れてくる。乗組員達は、歌声の魔力にひき込まれて忘我の夢遊状態に陥ってしまうが、ふと我に返った者の警告で皆が目覚め、慌ただしく魔物からの逃走を企てる。
ここから音楽は急にテンポを上げ、展開部に相当する逃走のシーンが始まる。激しく荒れる嵐の海の難航の中、追跡してくるセイレーンの恐ろしい咆哮が背後に迫る極限状況において曲はクライマックスを迎え、一気に二回目のピアノ・カデンツァへとなだれ込んでいく。
最後は、からくも難を逃れた船が帰港へ向かう航海のシーン。大洋の航海のテーマ、霧笛の音が回想されつつ、船は穏やかに遠ざかっていく。
この作品はピアノとオーケストラの編成ではあるが、コンチェルトとは違って独奏者のヴィルトゥオーソを楽しむような気軽で遊興的な要素は少ない。独奏ピアノとオーケストラとは「互いに引き立て合う」というよりは「各々が不可分の混然一体となって物語を紡いでいく」のであり、畢竟、独奏者はせっかく難しいパートを見事鮮やかに弾きこなしても脚光を浴びにくい作品と言えよう。
しかし、今回ピアノ独奏を依頼した浦壁信二氏は、類まれな超絶技巧の持ち主であるにもかかわらず、その技巧の鮮やかさを聴衆に披瀝するよりも、作品の本質や実像を一から掘り起こして再構築するような、献身的な立ち位置に自らを置くタイプの演奏家である。つまり「再現する」という演奏家本来の使命に加え、あえて義務ではない「再創造する(作曲の過程を追体験する)」ことをも買って出る表現者だと思う。だからこそ私は自らの作品の初演を数多く彼に依頼し、信頼し、安心して委ねてきた。今回の作品の構想は、彼の創造性の深さ、強さ、大きさを期待できてこそ成立するものであったのだ。彼にここで最大の感謝を捧げたい。
平井正志
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オーケストラ・プロジェクト 2025
「158の肖像 オーケストラ・プロジェクト第40回を迎えて」
~芥川也寸志、ベリオ、ブーレーズ生誕100年の年に~
【公演日】2025年12月3日(水)19:00 開演 (18:00開場)
18:15よりプレ・トーク
【会場】東京オペラシティ コンサートホール
https://www.operacity.jp/concert/
京王新線 「初台駅」東口下車徒歩5分 03-5353-0788
【曲目】
土屋 雄: 第二の声 〜ヴァイオリンと管弦楽のための
Takéshi Tsuchiya : La deuxièm voix pour violon et orchestre
山本 純ノ介: 光の中の二つの時 〜独奏クラリネットとオーケストラのために
Junnosuke YAMAMOTO: Zwei Zeiten im Lumine für Klarinettensolo mit orchester
平井 正志: セイレーンの島 〜ピアノとオーケストラの為の~
Masashi HIRAI: “Siren’s Island” for Piano and Orchestra
石黒 晶: みすゞの誕生 ~オペラ≪みすゞ≫より~
Sayaka ISHIGIRO: The Birth of Misuzu -from Opera Misuzu-
【演奏】
指揮:大井剛史/樋本英一(石黒作品)
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
ヴァイオリン独奏 松原勝也 (土屋作品)
クラリネット独奏 岩瀬龍太 (山本作品)
ピアノ独奏 浦壁信二 (平井作品)
独唱 伊藤晴 Sp/中嶋俊晴Ct/山下裕賀Mz/
村上敏明Tn/町英和Br (石黒作品)
合唱 東京混声合唱団 (石黒作品)
主催:オーケストラプロジェクト